インボイス発行事業者に登録した個人事業主が、消費税の納付額を売上から簡単に計算できる「2割特例」は、令和8年分(2026年分)で終わります。令和8年度税制改正で、令和9年分と令和10年分は、個人事業者だけの「3割特例」が使えるようになりました。この記事は、税抜売上1,000万円を基準に、3割特例・簡易課税・原則課税の納付額(消費税と地方消費税の合計)を並べ、どこが分かれ目なのかを早見表にしたものです。
結論から言うと、納付額は税抜売上に対して、2割特例が2%(1,000万円で20万円)、3割特例が3%(30万円)で、令和9年分は1%ぶん増えます。簡易課税は事業区分によって1%(第1種)から6%(第6種)、原則課税は仕入れ次第で10%から還付までです。3割特例より簡易課税が小さくなるのは第1種・第2種だけで、第3種は同額、第4種〜第6種は3割特例のほうが小さくなります。
自分の売上・仕入れで計算したい場合は、個人事業主の消費税シミュレーションをご利用ください。
令和8年分は2割、令和9・10年分は3割、令和11年分からは特例なし
暦年で申告する個人事業者の場合、どの年分にどの方法が使えるかと、確定申告の期限は次のとおりです。2割特例・3割特例は、納付する消費税を売上の消費税額の2割・3割にできる制度で、仕入れの消費税額を計算する必要がなく、事前の届出も要りません(確定申告書にその旨を書きます)。
| 年分 | 使える方法 | 売上の消費税額に対する納付 | 確定申告の期限 |
|---|---|---|---|
| 令和8年分(2026年) | 2割特例、簡易課税、原則課税 | 2割特例は20% | 2027年3月31日(水) |
| 令和9年分(2027年) | 3割特例、簡易課税、原則課税 | 3割特例は30% | 2028年3月31日(金) |
| 令和10年分(2028年) | 3割特例、簡易課税、原則課税 | 3割特例は30% | 2029年4月2日(月) |
| 令和11年分(2029年) | 簡易課税、原則課税 | 特例なし | 2030年4月1日(月) |
納付額を、税抜売上に対する割合で見る
標準税率(10%)の売上だけなら、売上の消費税額(国税)は税抜売上の7.8%、地方消費税はその22/78で、合わせて10%です。2割特例・3割特例・簡易課税は、売上の消費税額から一定の割合を「仕入れの消費税額」とみなして引くので、納付額は税抜売上の10%に(1−引く割合)を掛けた額になります。税抜売上1,000万円の納付額で比べると、次のとおりです。
| 方法 | 引く割合 | 納付(税抜売上に対して) | 納付額(売上1,000万円) |
|---|---|---|---|
| 2割特例(令和8年分) | 80% | 2% | 200,000円 |
| 3割特例(令和9・10年分) | 70% | 3% | 300,000円 |
| 簡易課税 第1種(卸売業) | 90% | 1% | 100,000円 |
| 簡易課税 第2種(小売業など) | 80% | 2% | 200,000円 |
| 簡易課税 第3種(製造業・建設業など) | 70% | 3% | 300,000円 |
| 簡易課税 第4種(飲食店業など) | 60% | 4% | 400,000円 |
| 簡易課税 第5種(サービス業など) | 50% | 5% | 500,000円 |
| 簡易課税 第6種(不動産業) | 40% | 6% | 600,000円 |
| 原則課税 | 実際の仕入れ | 10%から(仕入れ次第) | 次の表 |
簡易課税は、売上の消費税額に事業区分ごとの「みなし仕入率」(第1種90%、第2種80%、第3種70%、第4種60%、第5種50%、第6種40%)を掛けた額を仕入れの消費税額として引く制度です。あらかじめ「消費税簡易課税制度選択届出書」を出す必要があり、選んだら原則2年間は続けます。基準期間の課税売上高が5,000万円を超えると使えません。
3割特例(引く割合70%)と比べると、みなし仕入率が70%より高い第1種(卸売業)と第2種(小売業、飲食料品の農林水産業)は簡易課税のほうが納付額が小さく、第3種(製造業・建設業など)は同額で、第4種(飲食店業など)、第5種(サービス業・運輸通信業・金融保険業)、第6種(不動産業)は3割特例のほうが小さくなります。国税庁のQ&A(問117-3)も、小売業の人は簡易課税の80%のみなし仕入率が使えるので、3割特例より納付額が少なくなると考えられると説明しています。事業区分は、事業の内容で決まります(国税庁)。
原則課税が小さくなるのは、課税仕入れが売上の70%(3割特例)・50%(簡易課税第5種)を超えるとき
原則課税は、仕入れ・外注費・経費にかかった消費税額を、実額で引きます。売上の消費税額と同じ税率なら、課税仕入れ(消費税がかかる支出)が税抜売上の何%かが、そのまま「引く割合」です。したがって、課税仕入れが売上の70%を超える年は、原則課税のほうが3割特例より納付額が小さく、50%を超えると簡易課税(第5種)より小さくなります。税抜売上1,000万円・令和9年分で、課税仕入れ(税抜)を変えた表です。
| 課税仕入れ(税抜) | 売上に対する割合 | 原則課税 | 簡易課税(第5種) | 3割特例 |
|---|---|---|---|---|
| 0円 | 0% | 1,000,000円 | 500,000円 | 300,000円 |
| 2,000,000円 | 20% | 800,000円 | 500,000円 | 300,000円 |
| 5,000,000円 | 50% | 500,000円 | 500,000円 | 300,000円 |
| 7,000,000円 | 70% | 300,000円 | 500,000円 | 300,000円 |
| 8,000,000円 | 80% | 200,000円 | 500,000円 | 300,000円 |
| 10,000,000円 | 100% | 0円 | 500,000円 | 300,000円 |
| 12,000,000円 | 120% | 還付 200,000円 | 500,000円 | 300,000円 |
原則課税は、課税仕入れが売上と同額(1,000万円)で納付が0円になり、売上を上回る年は還付になります(1,200万円の仕入れで200,000円の還付)。簡易課税と、2割特例・3割特例は、仕入れが多くても還付になりません(国税庁インボイスQ&A 問117-3)。設備投資などで仕入れが大きくなる年は、原則課税の申告を選べるかどうかが納付額・還付額を左右します。
ただし、「課税仕入れ」は経費の全部ではありません。住居の家賃、給与・賃金、保険料、税金、利子、海外への支払いなど、消費税がかからないものは含まれません。この割合は事業によって大きく違い、商品を仕入れて売る事業では高く、自分の作業が中心の事業では低くなる傾向があります。自分の数字は、帳簿の課税仕入れの合計(税抜)を売上(税抜)で割って確かめられます。
2割から3割に変わると、いくら増えるか
令和8年分の2割特例から令和9年分の3割特例へ、同じ売上のまま変わると、納付額は税抜売上のちょうど1%(売上の消費税額の10%)増えます。令和8年分で2割特例を使った人の、令和9年分の目安です。
| 税抜売上 | 売上の消費税額(国税) | 令和8年分(2割特例) | 令和9年分(3割特例) | 増える額 |
|---|---|---|---|---|
| 3,000,000円 | 234,000円 | 60,000円 | 90,000円 | +30,000円 |
| 5,000,000円 | 390,000円 | 100,000円 | 150,000円 | +50,000円 |
| 8,000,000円 | 624,000円 | 160,000円 | 240,000円 | +80,000円 |
| 10,000,000円 | 780,000円 | 200,000円 | 300,000円 | +100,000円 |
簡易課税に切り替えたいときの届出の期限
簡易課税は、使いたい年の前年の12月31日までに届出書を出すのが原則です。ただし、2割特例・3割特例を使った年の翌年は、その翌年分の確定申告の期限まで届出書を出せば、翌年から簡易課税にできます(国税庁。令和8年度税制改正で、その翌課税期間が令和8年10月1日以後に終了する場合の期限が、この「申告期限まで」になりました)。暦年の個人事業者の場合は次のとおりです。
| 特例を使った年分 | 簡易課税にする年分 | 届出書の期限(特例を使った場合) |
|---|---|---|
| 令和8年分(2割特例) | 令和9年分 | 2028年3月31日(金) |
| 令和9年分(3割特例) | 令和10年分 | 2029年4月2日(月) |
| 令和10年分(3割特例) | 令和11年分 | 2030年4月1日(月) |
期限は、令和9年分・令和10年分・令和11年分の確定申告の期限です。令和11年分の期限は、国税庁の資料にも「令和12年4月1日」と書かれています(3月31日が日曜日のため)。令和10年分の期限が4月2日なのは、3月31日が土曜日、4月1日が日曜日だからです(期限が日曜日・祝日・土曜日などにあたるときは、その翌日が期限になります。国税通則法第10条第2項、同施行令第2条第2項)。簡易課税は、選んだら原則2年間は続ける必要があり、基準期間の課税売上高が5,000万円を超えると使えなくなります。
この記事・早見表に入っていないこと
- 軽減税率(8%)の売上、事業区分が2つ以上ある場合(75%ルール・按分)、売上や仕入れを請求書ごとに積み上げる計算は入っていません。ツールでは軽減税率の売上・仕入れを入れられますが、事業区分は1つだけです。
- 免税事業者などインボイスのない仕入れについては、経過措置で仕入税額の一部(令和8年10月1日から令和10年9月30日は70%、その後50%、30%)だけ控除できます。この表の原則課税には入れていません(国税庁)。
- 3割特例の申告書の様式と、そこでの端数処理は、2026年10月時点で国税庁の手引きが公表されていません。2割特例の設例(国税庁、国税太郎)と同じ端数処理だと仮定しています。令和8年分までの2割特例と、簡易課税・原則課税の設例(国税太郎・甲野商店)は、このサイトの計算で円単位まで再現しています。
- 登録するかどうか、どの方法を選ぶかの判断は、取引先との関係、価格、事務の負担を含めて人によって違います。この記事は、方法ごとの納付額の違いだけを示すもので、どれがよいかは判断しません。
一般的な情報であり、専門的助言ではありません。実際の納付額は、消費税の確定申告書の計算で決まります。税務署や税理士に確認してください。
出典
- 国税庁 — インボイス制度 令和8年度税制改正特集(3割特例の要件・計算イメージ・簡易課税への円滑な移行措置・みなし仕入率)
- 国税庁 — インボイスQ&A 問115-2(3割特例の適用ができない課税期間)・問117-3(3割特例を適用するよりも簡易課税制度を適用した方が納付税額が少なくなる場合)
- 国税庁 — 2割特例の概要(令和8年9月30日までの日を含む課税期間・計算方法)
- 国税庁 — 消費税及び地方消費税の確定申告の手引き(2割特例用)令和7年分・個人事業者用(一般用・簡易課税用)(設例による端数処理の検算)
- 財務省 — 第221回国会 所得税法等の一部を改正する法律案(法律案本文。附則第51条の3=3割特例)
- e-Gov法令検索 — 消費税法(第9条・第29条・第30条・第37条)・消費税法施行令(第57条 みなし仕入率)
- e-Gov法令検索 — 国税通則法(第10条第2項 期限の特例)・同施行令(第2条第2項 土曜日・12月29日〜31日)