老齢年金は、70歳まで繰り下げると、1か月あたり0.7%、60か月で42%増えます。「42%増」は額面(税金や保険料を引く前)の話です。年金が増えると、そのぶん税金も増えるので、手取りの増え方は42%より小さくなります。どれくらい小さくなるのか、65歳で請求した場合に累計で追いつくのは何歳か、このサイトの計算で調べました。
繰下げの増額率は「月数×0.7%」、手取りは税金のぶん小さくなる
増額率は、65歳に達した月から繰下げの申出をした月の前月までの月数に、0.7%を掛けた率です(国民年金法施行令第4条の5。日本年金機構)。66歳0か月で8.4%、70歳で42.0%、75歳で84.0%です。年金は申出をした月の翌月分から出ます(国民年金法第28条第3項)。
手取りにするには、税金と社会保険料を引きます。公的年金等の所得は「年金額−公的年金等控除」で、65歳以上は年金が330万円未満なら控除は110万円、そこから基礎控除や社会保険料控除を引いて税金を計算します(所得税法第35条、租税特別措置法第41条の15の3、国税庁 No.1600)。年金が増えると、控除では消えない部分が増え、所得税が、年金によっては住民税も、かかるようになります。社会保険料は、割合が同じなら年金に比例するので、手取りの増え方はほとんど変えません(社会保険料控除で税金が少し変わる程度です)。
年金額別の表:70歳まで繰り下げたときの手取りと、逆転する年齢
次の表は、65歳から受け取るとした年金(老齢基礎年金は年80万円、残りは老齢厚生年金)ごとに、70歳で請求した場合の、80歳の年の手取りと、65歳請求に累計で追いつく月分です。手取りは、年金から所得税・住民税・社会保険料5%を引いた額で、令和10年分以後の税制で計算しています。
| 65歳の年金(年額) | 70歳の年金(額面) | 手取り(65歳請求) | 手取り(70歳請求) | 手取りの増え方 | 逆転(手取り) |
|---|---|---|---|---|---|
| 100万円 | 1,420,000円 | 950,000円 | 1,349,000円 | +42.0% | 81歳11か月 |
| 120万円 | 1,704,000円 | 1,140,000円 | 1,605,000円 | +40.8% | 82歳3か月 |
| 140万円 | 1,988,000円 | 1,330,000円 | 1,847,800円 | +38.9% | 82歳10か月 |
| 160万円 | 2,272,000円 | 1,515,000円 | 2,087,129円 | +37.8% | 83歳3か月 |
| 180万円 | 2,556,000円 | 1,687,000円 | 2,297,257円 | +36.2% | 83歳10か月 |
| 200万円 | 2,840,000円 | 1,858,000円 | 2,526,273円 | +36.0% | 83歳11か月 |
| 220万円 | 3,124,000円 | 2,029,100円 | 2,755,441円 | +35.8% | 84歳 |
| 240万円 | 3,408,000円 | 2,190,301円 | 2,988,536円 | +36.4% | 83歳9か月 |
| 260万円 | 3,692,000円 | 2,332,713円 | 3,228,277円 | +38.4% | 83歳1か月 |
| 300万円 | 4,260,000円 | 2,655,314円 | 3,697,531円 | +39.3% | 82歳9か月 |
| 340万円 | 4,828,000円 | 2,981,691円 | 4,145,378円 | +39.0% | 82歳10か月 |
| 380万円 | 5,396,000円 | 3,319,548円 | 4,593,224円 | +38.4% | 83歳1か月 |
- 年金が100万円の人は、65歳でも70歳でも所得税・住民税がかからず、手取りも額面と同じ42.0%増えます。住民税は、65歳以上で年金が155万円までなら非課税(合計所得45万円以下、単身・1級地の目安)で、このツールはそう計算します。
- 年金が180万円の人は、65歳なら税金が23,000円(住民税のみ)ですが、70歳で年金が2,556,000円になると、所得税も加わって130,943円になります。手取りは額面の42%増に対して36.2%増で、累計で追いつく月分は83歳10か月です。
- 手取りの増え方が最も小さいのは年金220万円の例(35.8%増)で、逆転も最も遅い84歳です。年金が300万円の例では、39.3%増、逆転は82歳9か月と、また早くなります。税率の区分や控除の変わり方で、増え方は一方向には動きません。
年金が242万円を超えると、基礎控除が一度に下がる(令和10年分以後)
令和10年分からは、合計所得が132万円以下なら基礎控除が99万円、それを超えると62万円になります(租税特別措置法第41条の16の2、国税庁)。年金だけの65歳以上の人では、年金が242万円までは雑所得が132万円以内で99万円、242万円を1,000円でも超えると62万円です。社会保険料を考えない場合の所得税は、242万円で16,847円、2,421,000円で35,786円と、1,000円の違いで約18,940円変わります。
65歳で請求した年金が242万円に届かず、70歳に繰り下げた額が242万円を超える人(65歳の年金でおよそ170万円超〜)は、この境目をまたぎます。令和8・9年分は別の表(合計所得489万円以下で104万円)で、この境目はありません。繰下げをして年金を受け取るのが令和10年分以後になる人が、主に関係します。
逆転する年齢は、額面なら決まった年齢。繰り下げる年齢ごとの目安
額面の累計が追いつく月は、年金額に関係なく、繰り下げる月数で決まります。0.7%×n か月の増額で、n か月ぶん受け取りが遅れた分を取り戻す月です。年金額180万円の例では、次のとおりです。
| 請求する年齢 | 増額率 | 逆転(額面) | 逆転(手取り) |
|---|---|---|---|
| 66歳 | +8.4% | 77歳11か月 | 79歳1か月 |
| 67歳 | +16.8% | 78歳11か月 | 80歳1か月 |
| 68歳 | +25.2% | 79歳11か月 | 81歳2か月 |
| 69歳 | +33.6% | 80歳11か月 | 82歳4か月 |
| 70歳 | +42.0% | 81歳11か月 | 83歳10か月 |
| 71歳 | +50.4% | 82歳11か月 | 84歳10か月 |
| 72歳 | +58.8% | 83歳11か月 | 85歳10か月 |
| 73歳 | +67.2% | 84歳11か月 | 86歳10か月 |
| 74歳 | +75.6% | 85歳11か月 | 87歳10か月 |
| 75歳 | +84.0% | 86歳11か月 | 88歳10か月 |
どの年齢も、額面の逆転は、請求する年齢の11年11か月後です。受け取りが1年遅れるたびに増える8.4%が、1年分の年金を約11年11か月で取り戻すからです。手取りの逆転は、そこに税金の増加分が加わるぶん遅くなります。この表は、どの年齢まで生きるかを決めるものではありません。何歳まで受け取るかが分からないので、手取りの累計で並べて、逆転する年齢を示しているだけです。
前提を変えると、逆転はどう動くか
年金額180万円・70歳の例で、前提を1つずつ変えた結果です。割引率は、受け取りが遅れる分を運用で取り返せるとみる年率(物価上昇を除く)で、65歳に達した月の価値に直した累計を比べます。
| 前提 | 手取りの増え方 | 逆転(額面) | 逆転(手取り) |
|---|---|---|---|
| 社会保険料 0% | +36.1% | 81歳11か月 | 83歳10か月 |
| 社会保険料 5%(この記事の例) | +36.2% | 81歳11か月 | 83歳10か月 |
| 社会保険料 9% | +36.3% | 81歳11か月 | 83歳9か月 |
| 年金以外の所得 100万円 | +38.1% | 81歳11か月 | 83歳2か月 |
| 年金以外の所得 200万円 | +35.5% | 81歳11か月 | 84歳2か月 |
| 割引率 1% | +36.2% | 83歳1か月 | 85歳3か月 |
| 割引率 2% | +36.2% | 84歳5か月 | 87歳1か月 |
- 社会保険料の割合は、0%でも9%でも、手取りの増え方と逆転はほとんど変わりません。年金に比例して引かれるためです(年金から引かれる実際の国民健康保険・介護保険は地域と所得で違います)。
- 年金以外の所得の影響は、一方向ではありません。所得が200万円あると、年金が増えた分に高い税率がかかるので、逆転は84歳2か月と遅くなります。所得が100万円の例は、65歳請求の年金でも合計所得が132万円を超えていて、基礎控除の境目をまたがないため、83歳2か月と、むしろ早くなります。
- 割引率が高いほど、逆転は大きく遅くなります。1%で額面の逆転が83歳1か月、2%で84歳5か月です。受け取りが遅れた分を運用で増やせると考えるほど、繰下げの利点は小さく見えます。
この計算に入っていないもの
- 加給年金額と振替加算額は、増額の対象になりません。繰下げの待機期間中は、受け取ることもできません(日本年金機構)。加給年金がつく人は、繰り下げた期間のぶん、受け取れなくなる額があります。
- 65歳以後に厚生年金に加入して働き、在職老齢年金で支給停止される額が出るときは、その額は増額の対象になりません(日本年金機構)。
- 65歳の誕生日の前日から66歳の誕生日の前日までの間に、障害給付や遺族給付を受け取る権利があるときは、繰下げの申出ができません。66歳に達した日以後に他の公的年金の受給権を得ると、その時点で増額率が固定されます(日本年金機構)。
- 年金額は今の円で一定として、物価・賃金によるスライドとマクロ経済スライドは入れていません。社会保険料は年金額に一定の割合を掛けただけで、実際の国民健康保険・介護保険・後期高齢者医療の保険料とは違います。住民税は、同じ年の所得で計算しています(実際は前年の所得で、翌年度に払います)。
- 税は、誕生日を1月1日とみなして、年齢ごとの1年を暦年として計算した概算です。調整控除(約2,500円)、配偶者控除、医療費控除などの所得控除は入れていません。令和10年分から加わる公的年金等控除の調整(給与所得控除との合計が280万円を超える分)も入れていません。
- 「繰り下げたほうが得」「早く受け取るほうが得」といった判断はしません。どちらが多くなるかは、何歳まで受け取るかで決まるからです。健康状態や生活費、貯蓄、配偶者の年金など、ここに入っていない事情で、選ぶ年齢は変わります。実際の年金額と手続きは、年金事務所やねんきんネットで確認してください。
自分の年金額・今の年齢・年金以外の所得で試すには、年金の繰上げ・繰下げシミュレーションに入れて、60歳〜75歳の請求と、手取りの逆転する月分を並べられます。
出典
- 日本年金機構 — 年金の繰下げ受給(増額率 0.7%×月数、66歳〜75歳、加給年金額・振替加算額の扱い、在職老齢年金で停止される額は増額の対象外、繰下げみなし増額制度。2026年8月12日更新)
- 日本年金機構 — 繰下げ増額率早見表(詳細版 PDF。66歳0か月の8.4%から75歳の84.0%まで、月ごと)
- 日本年金機構 — 年金の繰上げ受給(減額率 0.4%×月数、60歳0か月で24%減。2024年8月19日更新)
- e-Gov法令検索 — 国民年金法施行令(第4条の5 繰下げの増額率 1,000分の7×月数、120か月まで。第12条 繰上げの減額率 1,000分の4×月数)
- e-Gov法令検索 — 国民年金法(第28条 支給の繰下げ: 申出のあった日の属する月の翌月から支給)・厚生年金保険法(第44条の3)
- e-Gov法令検索 — 所得税法 第35条(公的年金等控除額。令和8年法律第12号による改正後の規定、2026年12月1日施行)・租税特別措置法 第41条の15の3(65歳以上の最低控除額110万円)・第41条の16の2(令和10年分以後は合計所得132万円以下で基礎控除に37万円を加算)
- 国税庁 タックスアンサー No.1600 — 公的年金等の課税関係(速算表。65歳以上・年金350万円で雑所得235万円の例)
- 国税庁 — 令和8年4月「源泉所得税の改正のあらまし」(基礎控除は令和8・9年分と令和10年分以後で別の表)