年金を70歳まで繰り下げると、手取りは何%増える?額面の42%増との差と、累計で追いつく年齢(年金額別の表)

老齢年金を70歳まで繰り下げると額面は42%増えますが、税金と社会保険料を引いた手取りの増え方は、年金額によって35.8%〜42.0%(老齢基礎年金を年80万円、年金100万〜380万円の例)。65歳で請求した場合に累計で追いつく年齢は、額面なら年金額によらず81歳11か月、手取りでは81歳11か月から84歳です。年金が242万円を超えると基礎控除が99万円から62万円に下がる令和10年分以後の境目、繰り下げる年齢ごとの逆転、社会保険料・年金以外の所得・割引率を変えたときの違いを、日本年金機構と条文、国税庁から計算しました。

公開日 2026年10月19日

出典の確認・検証・訂正について

老齢年金は、70歳まで繰り下げると、1か月あたり0.7%、60か月で42%増えます。「42%増」は額面(税金や保険料を引く前)の話です。年金が増えると、そのぶん税金も増えるので、手取りの増え方は42%より小さくなります。どれくらい小さくなるのか、65歳で請求した場合に累計で追いつくのは何歳か、このサイトの計算で調べました。

老齢基礎年金を年80万円、老齢厚生年金で残りの額とし、年金から引かれる社会保険料を5%、年金以外の所得はなしとした例では、70歳で請求したときの手取りは、65歳で請求したときより、年金額によって35.8%(年金220万円のとき)から42.0%(100万円のとき)多いだけです。額面の累計が65歳請求に追いつくのは年金額によらず81歳11か月の月分ですが、手取りの累計では81歳11か月から84歳の月分になります。

繰下げの増額率は「月数×0.7%」、手取りは税金のぶん小さくなる

増額率は、65歳に達した月から繰下げの申出をした月の前月までの月数に、0.7%を掛けた率です(国民年金法施行令第4条の5。日本年金機構)。66歳0か月で8.4%、70歳で42.0%、75歳で84.0%です。年金は申出をした月の翌月分から出ます(国民年金法第28条第3項)。

手取りにするには、税金と社会保険料を引きます。公的年金等の所得は「年金額−公的年金等控除」で、65歳以上は年金が330万円未満なら控除は110万円、そこから基礎控除や社会保険料控除を引いて税金を計算します(所得税法第35条、租税特別措置法第41条の15の3、国税庁 No.1600)。年金が増えると、控除では消えない部分が増え、所得税が、年金によっては住民税も、かかるようになります。社会保険料は、割合が同じなら年金に比例するので、手取りの増え方はほとんど変えません(社会保険料控除で税金が少し変わる程度です)。

年金額別の表:70歳まで繰り下げたときの手取りと、逆転する年齢

次の表は、65歳から受け取るとした年金(老齢基礎年金は年80万円、残りは老齢厚生年金)ごとに、70歳で請求した場合の、80歳の年の手取りと、65歳請求に累計で追いつく月分です。手取りは、年金から所得税・住民税・社会保険料5%を引いた額で、令和10年分以後の税制で計算しています。

65歳の年金(年額)70歳の年金(額面)手取り(65歳請求)手取り(70歳請求)手取りの増え方逆転(手取り)
100万円1,420,000円950,000円1,349,000円+42.0%81歳11か月
120万円1,704,000円1,140,000円1,605,000円+40.8%82歳3か月
140万円1,988,000円1,330,000円1,847,800円+38.9%82歳10か月
160万円2,272,000円1,515,000円2,087,129円+37.8%83歳3か月
180万円2,556,000円1,687,000円2,297,257円+36.2%83歳10か月
200万円2,840,000円1,858,000円2,526,273円+36.0%83歳11か月
220万円3,124,000円2,029,100円2,755,441円+35.8%84歳
240万円3,408,000円2,190,301円2,988,536円+36.4%83歳9か月
260万円3,692,000円2,332,713円3,228,277円+38.4%83歳1か月
300万円4,260,000円2,655,314円3,697,531円+39.3%82歳9か月
340万円4,828,000円2,981,691円4,145,378円+39.0%82歳10か月
380万円5,396,000円3,319,548円4,593,224円+38.4%83歳1か月
  • 年金が100万円の人は、65歳でも70歳でも所得税・住民税がかからず、手取りも額面と同じ42.0%増えます。住民税は、65歳以上で年金が155万円までなら非課税(合計所得45万円以下、単身・1級地の目安)で、このツールはそう計算します。
  • 年金が180万円の人は、65歳なら税金が23,000円(住民税のみ)ですが、70歳で年金が2,556,000円になると、所得税も加わって130,943円になります。手取りは額面の42%増に対して36.2%増で、累計で追いつく月分は83歳10か月です。
  • 手取りの増え方が最も小さいのは年金220万円の例(35.8%増)で、逆転も最も遅い84歳です。年金が300万円の例では、39.3%増、逆転は82歳9か月と、また早くなります。税率の区分や控除の変わり方で、増え方は一方向には動きません。

年金が242万円を超えると、基礎控除が一度に下がる(令和10年分以後)

令和10年分からは、合計所得が132万円以下なら基礎控除が99万円、それを超えると62万円になります(租税特別措置法第41条の16の2、国税庁)。年金だけの65歳以上の人では、年金が242万円までは雑所得が132万円以内で99万円、242万円を1,000円でも超えると62万円です。社会保険料を考えない場合の所得税は、242万円で16,847円、2,421,000円で35,786円と、1,000円の違いで約18,940円変わります。

65歳で請求した年金が242万円に届かず、70歳に繰り下げた額が242万円を超える人(65歳の年金でおよそ170万円超〜)は、この境目をまたぎます。令和8・9年分は別の表(合計所得489万円以下で104万円)で、この境目はありません。繰下げをして年金を受け取るのが令和10年分以後になる人が、主に関係します。

逆転する年齢は、額面なら決まった年齢。繰り下げる年齢ごとの目安

額面の累計が追いつく月は、年金額に関係なく、繰り下げる月数で決まります。0.7%×n か月の増額で、n か月ぶん受け取りが遅れた分を取り戻す月です。年金額180万円の例では、次のとおりです。

請求する年齢増額率逆転(額面)逆転(手取り)
66歳+8.4%77歳11か月79歳1か月
67歳+16.8%78歳11か月80歳1か月
68歳+25.2%79歳11か月81歳2か月
69歳+33.6%80歳11か月82歳4か月
70歳+42.0%81歳11か月83歳10か月
71歳+50.4%82歳11か月84歳10か月
72歳+58.8%83歳11か月85歳10か月
73歳+67.2%84歳11か月86歳10か月
74歳+75.6%85歳11か月87歳10か月
75歳+84.0%86歳11か月88歳10か月

どの年齢も、額面の逆転は、請求する年齢の11年11か月後です。受け取りが1年遅れるたびに増える8.4%が、1年分の年金を約11年11か月で取り戻すからです。手取りの逆転は、そこに税金の増加分が加わるぶん遅くなります。この表は、どの年齢まで生きるかを決めるものではありません。何歳まで受け取るかが分からないので、手取りの累計で並べて、逆転する年齢を示しているだけです。

前提を変えると、逆転はどう動くか

年金額180万円・70歳の例で、前提を1つずつ変えた結果です。割引率は、受け取りが遅れる分を運用で取り返せるとみる年率(物価上昇を除く)で、65歳に達した月の価値に直した累計を比べます。

前提手取りの増え方逆転(額面)逆転(手取り)
社会保険料 0%+36.1%81歳11か月83歳10か月
社会保険料 5%(この記事の例)+36.2%81歳11か月83歳10か月
社会保険料 9%+36.3%81歳11か月83歳9か月
年金以外の所得 100万円+38.1%81歳11か月83歳2か月
年金以外の所得 200万円+35.5%81歳11か月84歳2か月
割引率 1%+36.2%83歳1か月85歳3か月
割引率 2%+36.2%84歳5か月87歳1か月
  • 社会保険料の割合は、0%でも9%でも、手取りの増え方と逆転はほとんど変わりません。年金に比例して引かれるためです(年金から引かれる実際の国民健康保険・介護保険は地域と所得で違います)。
  • 年金以外の所得の影響は、一方向ではありません。所得が200万円あると、年金が増えた分に高い税率がかかるので、逆転は84歳2か月と遅くなります。所得が100万円の例は、65歳請求の年金でも合計所得が132万円を超えていて、基礎控除の境目をまたがないため、83歳2か月と、むしろ早くなります。
  • 割引率が高いほど、逆転は大きく遅くなります。1%で額面の逆転が83歳1か月、2%で84歳5か月です。受け取りが遅れた分を運用で増やせると考えるほど、繰下げの利点は小さく見えます。

この計算に入っていないもの

  • 加給年金額と振替加算額は、増額の対象になりません。繰下げの待機期間中は、受け取ることもできません(日本年金機構)。加給年金がつく人は、繰り下げた期間のぶん、受け取れなくなる額があります。
  • 65歳以後に厚生年金に加入して働き、在職老齢年金で支給停止される額が出るときは、その額は増額の対象になりません(日本年金機構)。
  • 65歳の誕生日の前日から66歳の誕生日の前日までの間に、障害給付や遺族給付を受け取る権利があるときは、繰下げの申出ができません。66歳に達した日以後に他の公的年金の受給権を得ると、その時点で増額率が固定されます(日本年金機構)。
  • 年金額は今の円で一定として、物価・賃金によるスライドとマクロ経済スライドは入れていません。社会保険料は年金額に一定の割合を掛けただけで、実際の国民健康保険・介護保険・後期高齢者医療の保険料とは違います。住民税は、同じ年の所得で計算しています(実際は前年の所得で、翌年度に払います)。
  • 税は、誕生日を1月1日とみなして、年齢ごとの1年を暦年として計算した概算です。調整控除(約2,500円)、配偶者控除、医療費控除などの所得控除は入れていません。令和10年分から加わる公的年金等控除の調整(給与所得控除との合計が280万円を超える分)も入れていません。
  • 「繰り下げたほうが得」「早く受け取るほうが得」といった判断はしません。どちらが多くなるかは、何歳まで受け取るかで決まるからです。健康状態や生活費、貯蓄、配偶者の年金など、ここに入っていない事情で、選ぶ年齢は変わります。実際の年金額と手続きは、年金事務所やねんきんネットで確認してください。

自分の年金額・今の年齢・年金以外の所得で試すには、年金の繰上げ・繰下げシミュレーションに入れて、60歳〜75歳の請求と、手取りの逆転する月分を並べられます。

出典

この記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、税務・法律・投資その他の専門的助言ではありません。金額は概算の目安で、制度や金利は変更されることがあります。個別の状況については、税理士・社会保険労務士・金融機関などの専門家にご相談ください。