医療費控除は「10万円を超えた分が戻る」と説明されることがありますが、戻るのは超えた分の全額ではなく、その分にかかっていた税金です。所得税は確定申告で還付され、住民税は翌年度の住民税が減ります。この記事では、独身の会社員を例に、年収と医療費ごとにいくら減るのかを、当サイトの計算エンジンで求めます。
計算は当サイトの医療費控除シミュレーションと同じもので、所得税法第73条、租税特別措置法第41条の17、国税庁のタックスアンサーにもとづいています。令和8年分(2026年1〜12月に支払った医療費)の確定申告が対象です。
医療費が30万円なら、年収500万円の独身で約3万円減る
年収500万円・独身・扶養なし(35歳・給与のみ)の人が医療費を30万円払った場合、足切りの10万円を引いた200,000円が控除額です。所得税は10,210円が確定申告で還付され、住民税は20,000円、翌年度の住民税が減ります。合計は30,210円で、払った30万円の約1割です。
| 支払った医療費 | 控除額 | 所得税の還付 | 住民税の軽減 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 100,000円 | 0円 | 0円 | 0円 | 0円 |
| 150,000円 | 50,000円 | 2,553円 | 5,000円 | 7,553円 |
| 200,000円 | 100,000円 | 5,105円 | 10,000円 | 15,105円 |
| 300,000円 | 200,000円 | 10,210円 | 20,000円 | 30,210円 |
| 500,000円 | 400,000円 | 20,420円 | 40,000円 | 60,420円 |
| 1,000,000円 | 900,000円 | 45,945円 | 90,000円 | 135,945円 |
| 2,500,000円 | 2,000,000円 | 91,073円 | 200,000円 | 291,073円 |
所得税の税率が5%の区分(課税所得が195万円未満)にいる人は、控除額1万円あたり、所得税が約510円(5%と復興特別所得税2.1%)、住民税が1,000円(10%)で、合計約1,510円です。医療費が250万円かかっても控除額は200万円が限度で、所得税は納めていた全額(91,073円)までしか戻りません。
所得税は「戻る」、住民税は「減る」
住民税は現金では戻りません。前年の所得について医療費控除を差し引く決まりなので(地方税法第314条の2)、令和8年分の医療費控除は、令和9年度(2027年6月から)の住民税を減らします。同じ医療費30万円で、年収を変えて比べます。
| 額面年収 | 所得税の税率 | 所得税の還付 | 住民税の軽減 | 合計 | 住民税の割合 |
|---|---|---|---|---|---|
| 300万円 | 5% | 10,210円 | 20,000円 | 30,210円 | 66% |
| 400万円 | 5% | 10,210円 | 20,000円 | 30,210円 | 66% |
| 500万円 | 5% | 10,210円 | 20,000円 | 30,210円 | 66% |
| 600万円 | 10% | 20,420円 | 20,000円 | 40,420円 | 49% |
| 700万円 | 20% | 40,738円 | 20,000円 | 60,738円 | 33% |
| 800万円 | 20% | 40,840円 | 20,000円 | 60,840円 | 33% |
| 1,000万円 | 20% | 40,840円 | 20,000円 | 60,840円 | 33% |
| 1,200万円 | 23% | 46,966円 | 20,000円 | 66,966円 | 30% |
年収が高いほど所得税の税率が上がって還付は増えますが、住民税の軽減は年収にかかわらず同じ20,000円(控除額の10%)です。年収400万円・500万円の独身では、住民税の軽減の方が所得税の還付より大きく、合計の約3分の2を占めます。「確定申告で戻ってくる額」だけを見ると、この人たちが医療費控除で得をする額の約3分の1にしかなりません。
令和8年度改正で、税率5%の区分が広がった
令和8年分から基礎控除が最大104万円に引き上げられたため(令和8・9年分)、課税所得が195万円未満になる年収の範囲が広がりました。独身(35歳・給与のみ)で、医療費控除を受ける前の課税所得が195万円未満になる年収の上限は、改正前のルールでは約475万円、改正後は約525万円です。配偶者(収入なし)と16歳未満の子2人がいる世帯では、約528万円から約583万円になります。
この範囲の人が医療費控除で得る所得税の効果は、控除額の約5.1%と小さく、住民税(10%)の方が大きくなります。「改正前」は、令和8年度改正がなかった場合の令和8年分の基礎控除(合計所得132万円以下は95万円、336万円以下は88万円、489万円以下は68万円、655万円以下は63万円)で計算した値です。
税率の区分をまたぐと、「控除額×税率」より少なくなる
所得税の税率が高い区分にいる人でも、控除で課税所得が下の区分に下がる場合は、控除額に高い方の税率を掛ける簡易計算は実際より多くなります。課税所得が330万円のすぐ上にいる例として、年収675万円の独身を見ます。控除前の課税所得は3,311,000円で税率20%ですが、控除200,000円で3,111,000円(税率10%の区分)に下がります。「控除額×20%(復興特別所得税を含む)」の簡易計算では40,840円になりますが、控除の前後の税額を実際に計算すると21,543円です。
所得税と住民税の税率が変わる境目にいる人は、簡易計算ではなく、控除の前後の税額の差で確かめてください。
収入が少ない人は、足切りが10万円より低くなる
総所得金額等(給与だけなら給与所得)が200万円未満の人は、足切りが10万円ではなく、総所得金額等の5%になります(所得税法第73条)。独身の給与収入で言うと、およそ300万円未満です。医療費20万円の場合を比べます。
| 額面年収 | 総所得金額等 | 足切り額 | 控除額 | 所得税の還付 | 住民税の軽減 |
|---|---|---|---|---|---|
| 200万円 | 1,260,000円 | 63,000円 | 137,000円 | 0円 | 13,700円 |
| 240万円 | 1,600,000円 | 80,000円 | 120,000円 | 6,126円 | 12,000円 |
| 280万円 | 1,880,000円 | 94,000円 | 106,000円 | 5,411円 | 10,600円 |
| 300万円 | 2,020,000円 | 100,000円 | 100,000円 | 5,105円 | 10,000円 |
年収200万円の独身は、所得税の課税所得が0円で所得税がかからないため、所得税の還付は0円です。所得税の還付は、源泉徴収された所得税があってはじめて発生します(国税庁 No.2030)。それでも、住民税の軽減は13,700円あります。
セルフメディケーション税制が有利になるのは、医療費の合計が「対象薬+8万8,000円」より少ないとき
セルフメディケーション税制の控除額は、対象の市販薬の購入額から1万2,000円を引いた額(上限8万8,000円)、通常の医療費控除は、医療費の合計から足切り(10万円)を引いた額です。対象の市販薬をすべて治療のために買い、通常の医療費にも含まれるとすると、通常の控除がセルフメディケーション税制の控除に追いつくのは、医療費の合計が「足切り10万円+セルフメディケーション税制の控除額」になったときです。
| 対象の市販薬の購入額 | セルフメディケーション税制の控除額 | 通常の控除が追いつく医療費の合計 |
|---|---|---|
| 20,000円 | 8,000円 | 108,000円 |
| 30,000円 | 18,000円 | 118,000円 |
| 50,000円 | 38,000円 | 138,000円 |
| 80,000円 | 68,000円 | 168,000円 |
| 100,000円 | 88,000円 | 188,000円 |
医療費の合計がこの額より少なければ、セルフメディケーション税制の方が控除額が大きくなります。対象の市販薬が10万円を超えても、通常の控除が上回るのは医療費の合計が188,000円を超えたときです。市販薬だけで188,000円を超える場合は、最初から通常の控除の方が大きくなります。控除額が大きいほど税金が減る額も大きくなるので、控除額の大きい方を選べばよい、ということです。
ただし、どちらか一方しか選べず、確定申告のあとで選び直すことはできません(国税庁 No.1131)。セルフメディケーション税制は、健康診断や予防接種などの「一定の取組」を行っていることも条件です(国税庁 No.1129)。この表は、総所得金額等が200万円以上(足切り10万円)で、保険金などの補てんがない場合です。
共働き夫婦は、誰が支払ったかで戻る額が変わる
医療費控除は、医療費を実際に支払った人が受けます(国税庁 No.1120)。お互いを扶養にしていない共働き夫婦(年収700万円と300万円)が、医療費40万円を支払った場合を比べます。
| 支払い方 | 所得税の還付 | 住民税の軽減 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 年収が高い方が全額を支払う | 50,948円 | 30,000円 | 80,948円 |
| 年収が低い方が全額を支払う | 15,315円 | 30,000円 | 45,315円 |
| 半分ずつ支払い、別々に申告する | 25,525円 | 20,000円 | 45,525円 |
同じ40万円でも、年収700万円の人が支払うと合計80,948円、年収300万円の人が支払うと45,315円で、差は35,633円です。所得税の税率(20%と5%)が違うためで、住民税の軽減は同じです。また、半分ずつ払って別々に申告すると、足切りが2回引かれて控除額の合計が10万円少なくなり、合計は45,525円です。
医療費は実際に支払った人が控除を受けるので、誰が支払うかは、家計の実態にもとづいて決まります。この表は、支払った人によって結果が変わることを示すもので、支払い方を勧めるものではありません。
この記事の前提と、確認できていないこと
- 表は、給与所得だけの会社員が、年末調整を済ませたうえで、医療費控除だけを確定申告で追加する場合です。独身・35歳・扶養なし(共働きの表は、お互いを扶養にしていない場合)で、保険金などの補てんはありません。
- 社会保険料は料率による概算です(標準報酬月額の等級表は使っていません)。調整控除(最大2,500円)は含みません。年収の境目(税率5%の区分の上限など)は、この概算のため数万円ずれることがあります。
- 住民税の軽減は、表の世帯では確実に減る額です。家族構成などで住民税の課税所得が変わる場合は、当サイトのシミュレーションが範囲で示します。
- 「改正前」の数字は、国税庁の資料にある令和8年度改正前の基礎控除の表で計算しています。国税庁の確定申告書等作成コーナーの計算結果との照合はしていません。
- 令和9年分から、セルフメディケーション税制の対象医薬品が広がります(金額は同じ)。この記事は令和8年分です。
自分の年収や医療費で計算したい場合は、医療費控除シミュレーションをご利用ください。一般的な情報であり、専門的助言ではありません。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.1120 — 医療費を支払ったとき(医療費控除)
- 国税庁 タックスアンサー No.1129 — 特定一般用医薬品等購入費を支払ったとき(セルフメディケーション税制)
- 国税庁 タックスアンサー No.1131 — セルフメディケーション税制と通常の医療費控除との選択適用
- 国税庁 タックスアンサー No.2030 — 還付申告(源泉徴収された所得税があってはじめて還付が発生する)
- 国税庁 タックスアンサー No.2260 — 所得税の税率(速算表)
- 国税庁 — 令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし(令和8年度改正前の基礎控除の表)
- e-Gov法令検索 — 所得税法 第73条(医療費控除)
- e-Gov法令検索 — 租税特別措置法 第41条の17(セルフメディケーション税制)・第41条の16の2(基礎控除の加算)
- e-Gov法令検索 — 地方税法 第314条の2(住民税の医療費控除。前年の所得について控除する)