iDeCoを一時金で受け取ると、勤め先の退職金と同じ「退職所得」になり、退職所得控除が使えます。ただし、前に受け取った退職金と勤続期間が重なる分は、あとから受け取るほうの控除から引かれます。重なりを見る期間は、どちらを先に受け取るかで違い、令和8年に変わりました。
重なりを見る期間は3通り:4年・9年・19年
前に受け取った退職手当等(退職金やiDeCoの一時金)と、今回の勤続期間が重なっているとき、重なった年数ぶんの退職所得控除が、今回の控除から引かれます(所得税法施行令第70条)。どこまでさかのぼって「前の退職手当等」と数えるかは、次のとおりです(国税庁 No.2732)。
| 先に受け取ったもの | あとで受け取るもの | さかのぼる範囲 |
|---|---|---|
| 退職金など(退職手当等) | 退職金など | 前年以前4年内 |
| iDeCoの一時金(令和8年1月1日以後に受け取ったもの) | 退職金など | 前年以前9年内(令和7年分までは4年内) |
| 退職金など | iDeCoの一時金 | 前年以前19年内 |
範囲は暦年で数えます。「前年以前9年内」は、受け取る年の前年から9年前までです。同じ年に受け取った分は「前の退職手当等」ではなく、合計して1回で計算します。このとき勤続期間は、いちばん長い期間に、重ならない期間を足した期間です(国税庁 No.2735)。iDeCoの一時金を令和7年以前に受け取っていた場合は、これまでどおり4年内です。
重なりは、どう数えるのか
- iDeCoの勤続年数は、掛金を払った期間です(所得税法施行令第69条第1項第2号)。運用だけをしていた期間は入りません。1年未満は切り上げます。
- 重なるのは、iDeCoの掛金を払った期間と、退職金の勤続期間が重なった部分です。1年未満は切り捨てます。たとえば会社に勤めながら掛金を払った期間は、ほとんどが重なります。
- あとで受け取るほうの退職所得控除から、重なった年数ぶん(20年まで1年40万円、20年を超えると1年70万円)を引きます。引いた結果が80万円に満たなければ80万円です(所得税法第30条)。
- 前に受け取った退職金が、自分の勤続年数で計算した控除に満たないときは、その金額に見合う年数だけの期間として数えます(施行令第70条第2項。800万円以下なら収入金額÷40万円、800万円を超えると20年+(収入金額−800万円)÷70万円、1年未満切り捨て)。勤続38年で2,000万円の退職金は、控除2,060万円に満たないので37年として数えます。
受け取る順番と退職金の額で、iDeCoの分の税金はこう変わる
1,000万円のiDeCoの一時金(40歳から60歳まで20年間の掛金)を受け取るときに、退職金(勤続38年。60歳より遅く受け取る場合は、そのぶん勤続も延びる)との組み合わせで増える所得税と住民税です。退職金だけの税金は左から2列目、表の数字は「両方を受け取ったときの税金 − 退職金だけの税金」です。
| 退職金の額 | 退職金だけの税金 | 同じ年(どちらも60歳) | 退職金が先(60歳)、iDeCoは5年後(65歳) | 退職金が先(60歳)、iDeCoは15年後(75歳) | iDeCoが先(60歳)、退職金は5年後(65歳) | iDeCoが先(60歳)、退職金は10年後(70歳) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1,000万円 | 0円 | 0円 | 270,900円 | 270,900円 | 151,050円 | 151,050円 |
| 2,000万円 | 0円 | 993,262円 | 957,425円 | 957,425円 | 444,525円 | 151,050円 |
| 3,000万円 | 993,262円 | 1,676,703円 | 957,425円 | 957,425円 | 1,323,700円 | 151,050円 |
- 退職金が1,000万円なら、同じ年に受け取ると、iDeCoの分は0円です。両方で通算38年の控除2,060万円(合計の収入は2,000万円)に収まるからです。iDeCoを先に受け取れば151,050円で、iDeCoだけのときと同じです。退職金を先に受け取ると270,900円かかります。1,000万円の退職金は小さいので、重なりは4年として数えられ、iDeCoの控除は640万円まで減ります。
- 退職金が2,000万円なら、同じ年が993,262円、退職金を先に受け取ると957,425円で、5年後でも15年後でも同じです。重なりは19年として数えられ、iDeCoの控除は下限の80万円まで減るからです。iDeCoを先に受け取る場合は、退職金までの間隔が短いと444,525円、10年あけると151,050円と、重なりがなくなります。
- 退職金が3,000万円なら、退職金だけで993,262円の税金がかかります。そこにiDeCoを加えると、同じ年はiDeCoの分が1,676,703円、退職金を先に受け取るなら957,425円、iDeCoを60歳で先に受け取って退職金を65歳にすると1,323,700円、70歳なら151,050円です。
退職金を先に受け取ると、19年の範囲から出られない
iDeCoは、請求しないまま75歳に達すると、老齢給付金が支給されます(確定拠出年金法第34条。個人型は第73条で準用)。ですから、退職金を56歳以上で受け取る人は、一時金を75歳までに受け取るとすれば、必ず退職金の「19年内」に入ります。「退職金を先に受け取ったら、iDeCoを20年あければ重ならない」とは、75歳の期限があるので、できません。60歳で退職金を受け取るなら、iDeCoは最長でも15年後です。
先に受け取る側を、iDeCoにするほうは、9年あけると重なりがなくなります。ただし、iDeCoを60歳で受け取って退職金を70歳(10年後)にできるのは、働き続けて退職金が遅くなる人など、限られます。受け取る時期は、運営管理機関や勤め先の制度でも決まるので、自由に選べるとは限りません。
年金や併用にすると、重なりの計算からは外れる
iDeCoを年金で受け取る部分は、退職所得ではなく公的年金等の雑所得になり、退職所得控除の重なりの計算には入りません(所得税法施行令第82条の2、国税庁 No.2725)。そのかわり、ほかの公的年金と合算して課税されます。退職金2,000万円を60歳、iDeCoを65歳に受け取るとして、公的年金が65歳から年150万円ある人が、運用は0%、10年の年金にした場合の、iDeCoの分として増える税金は次のとおりです。
| 受け取り方 | 一時金分の税金 | 年金分の税金(10年の合計) | 合計 |
|---|---|---|---|
| 全部、一時金 | 957,425円 | 0円 | 957,425円 |
| 一時金50%+年金50% | 323,625円 | 520,000円 | 843,625円 |
| 全部、年金 | 0円 | 1,413,900円 | 1,413,900円 |
この例では、一時金だけが957,425円、併用が843,625円、年金だけが1,413,900円です。年金の税金が大きいのは、公的年金だけなら住民税がかからない人に、iDeCoの年金が加わると住民税がかかり始めるためで、ほかの収入が多い人や、公的年金が少ない人では結果が変わります。住民税や、年金から引かれる国民健康保険料・介護保険料への影響は計算に入れていません。自分の数字は、iDeCoの節税額と受け取り時の税金シミュレーションで、退職金の額・勤続年数・受け取る年齢を入れて比べられます。
このガイドが計算していないこと
- iDeCoを40歳から60歳まで20年間払った人と、勤続38年の退職金の例です。掛金を払った期間と勤続期間の重なりが違えば、数字は変わります。企業型DCの一時金(事業主掛金の期間)も、iDeCoと同じ退職所得ですが、ここでは扱いません。
- 令和30年分(2048年)以後の防衛特別所得税は1%が続くと仮定しています。退職所得の税額は、所得税と住民税(所得割10%)を合わせて計算し、ほかの所得は考えていません。障害退職、特定役員退職手当等、勤続5年以下の短期退職手当等の特例は含みません。
- 年金の例は、公的年金が年150万円(65歳から)、令和10年分以後の基礎控除で、住民税の非課税の目安(合計所得45万円、単身・1級地)を使った概算です。年金から引かれる保険料への影響は含みません。
- 「先に受け取るほうが得」「年金のほうが得」といった判断はしません。ここに書いたのは、制度がどう動くかの計算です。実際の税額は、退職所得の受給に関する申告書の記入内容や、お住まいの自治体の取り扱いで変わるため、税務署・税理士・運営管理機関にご確認ください。
出典
- 国税庁 — No.2732 退職手当等に対する源泉徴収[令和8年4月1日現在法令等](前の退職手当等との重複期間を見る範囲: 前年以前4年内、確定拠出年金の一時金(令和8年1月1日以後)を先に受けたときは9年内、退職手当等を先に受けて確定拠出年金の一時金を受けるときは19年内)
- e-Gov法令検索 — 所得税法施行令 第69条(勤続年数の計算。iDeCoは掛金を納付した個人型年金加入者期間)・第70条(退職所得控除額の計算の特例。前の退職手当等との重複、収入金額が控除に満たないときの期間の縮め方)
- 国税庁 — No.2725 退職所得となるもの(確定拠出年金法の老齢給付金として支給される一時金は退職手当等)
- 国税庁 — No.2735 同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき(合計して計算し、勤続期間は最も長い期間に重ならない期間を加える)
- e-Gov法令検索 — 確定拠出年金法 第33条(老齢給付金の支給要件)・第34条(75歳到達時の支給)・第73条(個人型年金への準用)
- e-Gov法令検索 — 所得税法 第30条(退職所得の金額・退職所得控除額・下限80万円)