日本で働いた外国籍の人が、年金に加入した期間が短いまま日本を出るとき、脱退一時金を請求できます。計算より難しいのは、手続きの順番と期限です。請求書を出す日を間違えると受け付けられず、納税管理人を決めずに出国すると、源泉徴収された税金を取り戻す手続きが遅れます。この記事は、日本年金機構と国税庁の資料から、時系列で整理したものです。金額の計算は、脱退一時金・還付金の計算でできます。
請求できる人
- 日本国籍を有していない。
- 国民年金の保険料納付済期間等、または厚生年金保険(共済組合等を含む)の被保険者期間が、6か月以上ある。国民年金で保険料が未納の期間は数えません。
- 日本の老齢年金の受給資格期間(合算対象期間を含めて10年)を満たしていない。障害年金などを受ける権利を持ったことがない。
- 被保険者でなくなり、日本に住所を有しない。日本に住所を有しなくなった日から2年以内に請求する。
請求する前に、知っておくこと
脱退一時金を受け取ると、請求より前の日本の年金の加入期間が、すべてなくなります。支給額の計算に使う月数の上限は60か月ですが、消えるのは60か月分だけではありません。日本年金機構の例では、90か月加入した人が請求すると、支給は60か月分で、90か月分すべてがなくなります。日本と年金通算の協定を結んでいる国の期間を通算すれば受給資格期間が10年に届く場合は、請求できません。将来、日本に戻る予定や、協定相手国の年金とあわせる可能性がある人は、請求の前に年金事務所で確認してください。
在留を繰り返して通算で61か月以上になる予定の人は、各在留の終了後、帰国のたびに請求が必要になる場合があります。日本年金機構は、技能実習(3年)を終えて帰国し、その後に特定技能1号で再び入国する人を例に挙げています。
手続きの順番(出国前から還付まで)
- 出国前:納税管理人を決めて、税務署に届け出る。厚生年金の脱退一時金は、支給のときに20.42%の税金が源泉徴収されます。戻してもらう手続きの申告と還付金の受け取りのために、帰国前に、日本での最後の住所地(または居所地)を管轄する税務署へ「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を出します。納税管理人になる人の資格は、日本に住所地または居所地があること以外、特にありません。届け出ずに帰国したときは、申告のときにあわせて出します。
- 出国前:市区町村に転出届を出す。転出届を出さずに再入国許可(みなし再入国許可を含む)で出国すると、再入国許可の有効期間が過ぎるまでは国民年金の被保険者とされ、脱退一時金を請求できません。
- 転出日以後:請求書を日本年金機構に出す。請求の要件として、機構が請求書を受け付けた日に、日本に住所がないことが必要です。出国前に日本から出す場合も、住民票の転出(予定)日以後に出します。郵送なら、転出(予定)日以後に機構に届くようにします。期限は、日本に住所を有しなくなった日から2年です。
- 請求書に添える書類。パスポートの写し(氏名、生年月日、国籍、署名、在留資格のページ)、日本に住所がないことを確認できる書類(住民票の除票の写し等。転出届を出していれば不要)、銀行名・支店名・支店の所在地・口座番号と、請求者本人名義であることがわかる書類、基礎年金番号がわかる書類です。
- 支給のあと:「支給決定通知書」を納税管理人に送る。送金と同時に届く「脱退一時金支給決定通知書」の原本を、納税管理人に送ります。
- 翌年1月1日以後:選択課税の申告書を出す。国税庁の記載例では、「退職所得の選択課税の申告書」は、その年の翌年1月1日以後に、納税地を管轄する税務署へ出します。申告書は、支給決定をした年の分で作ります(記載例は、2025年に支給決定した例で、令和7年分)。国民年金の脱退一時金は源泉徴収されないので、この手続きは要りません。
いくら受け取れるか
国民年金の脱退一時金は、最後に保険料を納付した月が令和8年4月から令和9年3月の場合、次のとおりです(日本年金機構の表。月数の区分の下限の例)。
| 保険料納付済期間等 | 支給額 |
|---|---|
| 6か月 | 53,760円 |
| 12か月 | 107,520円 |
| 24か月 | 215,040円 |
| 36か月 | 322,560円 |
| 48か月 | 430,080円 |
| 60か月以上 | 537,600円 |
厚生年金の脱退一時金は、被保険者であった期間の平均標準報酬額に、期間に応じた支給率(60か月以上で5.5)を掛けて求めます。次の表は、月数と平均標準報酬額を仮定した例です。
20.42%は戻るのか:全額戻る例と、一部しか戻らない例
選択課税では、支給された金額を、居住者として受けたものとみなして税額を計算し直します。厚生年金の脱退一時金の場合、勤続年数に当たる期間は5年以下なので、短期退職手当等の扱いになります(退職所得控除は、40万円×年数で、80万円に満たないときは80万円。そこから控除額を引き、300万円までの部分は2分の1にします)。
| 被保険者期間 | 平均標準報酬額 | 支給額 | 源泉徴収(20.42%) | 選択課税の税額 | 戻る額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 12か月 | 200,000円 | 220,000円 | 44,924円 | 0円 | 44,924円 |
| 36か月 | 300,000円 | 990,000円 | 202,158円 | 0円 | 202,158円 |
| 60か月 | 300,000円 | 1,650,000円 | 336,930円 | 0円 | 336,930円 |
| 60か月 | 450,000円 | 2,475,000円 | 505,395円 | 12,098円 | 493,297円 |
| 60か月 | 650,000円 | 3,575,000円 | 730,015円 | 40,176円 | 689,839円 |
支給額が退職所得控除の範囲に収まる例(上の3行)では、選択課税の税額が0円になり、源泉徴収された額の全額が戻ります。国税庁の記載例も同じで、支給額291,478円、源泉徴収額59,519円、退職所得控除800,000円で、全額が還付される例です。平均標準報酬額が高く、60か月加入した人は、控除を超える部分に税がかかるため、全額は戻りません。それでも、源泉徴収のままにするより、戻る額が大きくなります。
つまずきやすい点
- 転出日より前に請求書を出す。機構が受け付けた日に日本に住所がないことが要件なので、出国前に出す場合も、転出(予定)日以後に出します。
- 転出届を出さずに再入国許可で出国する。再入国許可の期間が過ぎるまで被保険者とされ、請求できません。
- 納税管理人を決めずに帰国する。届出書は申告のときにあわせて出せますが、出国前に出しておくほうが、申告と還付金の受け取りがスムーズです。
- 請求者本人以外の口座を書く。機構の案内では、請求者本人の口座名義であることがわかる書類が必要です。税金の還付金の受け取りは、別の手続きです。
- 2年の期限を過ぎる。日本に住所を有しなくなった日から2年以内に請求する必要があります。
確認した日は2026年10月2日です。日本年金機構の「脱退一時金の制度」のページ(更新日 2026年4月1日)は、計算に用いる月数の上限を60か月としています。上限の見直しの予定は、脱退一時金・還付金の計算のFAQにまとめています。制度は変わることがあるので、請求の前に、日本年金機構と税務署で最新の内容を確認してください。この記事の金額の表は、仮定をおいた例で、個別の請求の金額ではありません。